人工衛星の電波は、対流圏(高度0m~約11kmの大気の下層)を通ると屈折し、伝播速度が遅くなります。
基準点と計測点の高低差が数十mを超えると、伝播速度の遅延による差が無視できなくなり、誤差が大きくなるため、対流圏遅延補正を行う必要があります。
人工衛星とGPS/GNSSアンテナとの間に樹木などの障害物があると、受信電波に乱れが生じ、計測精度が悪化することがあります。
対策としては、障害物の存在する環境下での計測を避けるために上空視界が良好な位置を選んで計測する、あるいは、伐採等により障害物を排除することが推奨されますが、用地上の制約などから必ずしもそのような対策が取れるとは限りません。
ただし、衛星から上空障害物の隙間を経由して受信した電波を用いずに基線解析を実施する「マスク処理」を適用することである程度の精度改善が期待できます。
下図(a)は北西向き切土斜面に設置したアンテナ上空の写真です。
下図(c)に正常な計測値が得られた時間帯の人工衛星の軌跡を、下図(d)に計測値が大きく乱れた時間帯の人工衛星の軌跡を示します。
(c)の正常値が得られる時間帯では人工衛星も開けた上空に位置するのに対し、(d)の計測値が大きく乱れる時間帯では、人工衛星(9,12,13,20)が樹木の背後に隠れているために電波の伝播遅延が生じ、計測値が大きく乱れたと推察されます。
マスク処理では、樹木の背後に隠れた人工衛星からの電波を基線解析に用いないよう、(b)に示す障害物の範囲にマスク領域を設定して基線解析を行います。
(a) 上空視界 |
(b) マスクの設定 |
(c) 正常な計測値が得られる時間帯の人工衛星の軌跡 |
(d) 計測値が大きく乱れる時間帯の人工衛星の軌跡 |
計測上空写真とマスクの設定およびGPS/GNSS衛星の軌跡